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中世声楽作品勉強に必要なもの3つ

フランスは目下期末試験シーズン。私も古楽を歌いつつ、今年はアナリーズ(日本でいうと楽理ですかね)のディプロマを取ろうと勉強をしていたので、この2週間ほど忙しくブログがお留守になっておりました。
ちなみに私事ですが、アナリーズのディプロマ取得レベルで取り扱うのは主に19世紀末から20世紀以降の書法ですから、古楽とはまた別の世界です。私はもともと現代音楽を専門に勉強していましたし、日本では美学で20世紀以降の芸術作品を扱って修士を取っていますので、大喜びでアナリーズの授業に参加してチャールズ・アイヴズのオーケストラ曲に関する論文を書き上げたところです。まだ口頭試問などいくつかの試験が残ってます。。。

さて、頭を切り替えて古楽古楽。(笑)

私は渡仏する前はフランスのバロック作品を勉強したいと思っていたのですが、現在、どちらかというと中世音楽に関心が移っていると思います。

日本での学生時代の音楽史のノート(授業の書き取りじゃなくて自分で個人的に勉強していたノートで上下2巻各200ページにおよぶ大著になってます)を見返すと、異常なほど中世ないしは古代の音楽についての記述が続いています。
音律のお話しから記譜法、さらにはほとんど民俗音楽学に近いような古代ギリシャやらガリアやらについての記述が何十ページも、うざいほど書かれていてやたら内容が濃い(しかしながら学校の音楽史の試験ではそんなマニアックなことは問われなかった…orz)。本から得た知識はあれども、せいぜい聞いたことがあるのはノートルダム楽派のオルガヌム程度だった私。好奇心が強いので、この謎に満ちた時代のいまだ聴いたことのない音楽に人一倍強い関心は抱いていたのですが、聞いてもいないものを専門にしようとは思いませんから、渡仏前は中世のことは全く考えずバロックバロック、と思っていたわけです。

そんなわけで私は渡仏してから、運命でしょうか、良い先生に巡り合え、まずは古い記譜法の読解法を学び(おおいに私の知的好奇心を満たしてくれる授業で大喜びで勉強していました)、ほぼ同時期に中世作品の素晴らしい生演奏にも触れたのがきっかけで、すっかりこの世界にはまってしまいました。



長短調組織でまとめられた音楽とは一味違う対位法やメロディーラインのエキゾティックな風合い、古語の詩の表現法の豊かさ、そしてあの誰にも読めなそうないわゆるネウマ譜、と私の好奇心と美的感性にまさにベストマッチの中世声楽作品。

現在も着々と勉強を進めてレパートリーの開拓に励まねば、と思っていますが、実際に勉強をしている中で私が思う、3つの欠かせない準備についてここではお話ししたいと思います。

1.発声

古楽歌唱は色々なスタイルがあり先生によっても教えることが違ったりします。中世作品はバロックやルネサンスよりさらに古い音楽で記譜がすべてを語らない部分も多く、誰も正しいことはわからなかったりするので、どんな発声がベストか、誰も答えることはできません。
ただ、フランスでコンサートを聞いたり先生たちの話しを聞いたりしていると、リリックの発声法をそのまま使っている歌手たちも多いです(特に男声)。
具体的なレッスン法としては、基本の発声をきちんとしたリリックで作り上げた上で、時代背景に合わせた詩の表現法(オペラにあるような嘆き悲しむような直接的表現ではなく傍観するような内向きな表現)のために声を制御していく、というのが多いかな、と思っています(これは中世に限らずルネサンスでも同じ)。
リリックの発声(それもヨーロッパでオーソドックスなタイプの発声/日本で一般に好まれてる発声法や指導法と違う点が色々あります)ができていることが前提ですが、この柔らかく豊かな人の声を無意味なルバートをかけず、不必要な揺れも入れず(ビブラートは否定されているわけではありません)、詩の表現のために完璧にコントロールします。
数人の先生から教えてもらった練習法としては、例えば上下の歯をやや閉じて舌先を歯の間に沿えるような形で出す子音の「s」に乗せてメロディーラインをメトロノームをかけて正確に歌う方法などがあります。歌うというより、うっすらとハミングの音が出るか出ないかで主にタイヤの空気漏れのような音がするわけですが、呼吸を完璧にコントロールできないときちんと空気漏れの音が持続せず、強弱が不必要につかないよう自分で観察しながら歌えます。ちなみに喉や肩など余計な部分に力を入れずにできるので、実際に歌うときもこれと同じ感覚で歌えると完璧です。
もちろん発声の問題は1日2日で解決する問題ではないので、自分で色々試しながら先生たちと試行錯誤で作り上げていく必要があるでしょう。


2.詩

中世音楽は、ただ機械的に歌うと、何の魅力も意味もない単純な音のつながりになります。ミサ曲などポリフォニックな宗教作品だとまた少し話しが変わりますが(これは器楽に近いイメージ)、いかに歌詞を表現するかが、特にマショーのモノディー作品など世俗的な作品を歌うときには必ず求められます。
とにかく古語の正しい発音と、アクサントニック(Accent tonique)と呼ばれる場合によっては現代の言葉では失われている言葉の抑揚を学ぶ必要があります。こればかりは本だけでは吸収できないので、その言葉に詳しい先生にレッスンをお願いして、実際に発音してもらう、詩を朗読してもらう、それを正しく真似る(特に日本人は母音の発音に注意が必要です)、という作業を繰り返すしかありません。
また、この正しい発音を発声法の中で行わないといけないので、書かれている母音だけで歌うなどの作業を繰り返して、とにかく正確に歌えるように練習しなければいけません。少なくとも母国語ではない作品を歌う際は、時代に関係なくこの作業が重要ですが、特に日本人は、「あいうえお」の母音を日頃かなりあいまいに使っているわけで、母音の数がこれより多いフランス語やドイツ語など歌うためにはよほど注意深くしていないとミスをします。
イタリア語であっても、日本語の「あいうえお」と「AIUEO」は別物なので、新たに母音を学びなおす気持ちで取り組まねばなりません。
ラテン語は書かれた作品の地域と時代によって発音が異なるので、そこも注意。
とにかく耳と口と頭でしっかりと勉強せねばなりません。
歌詞の内容は古語の辞書を使えばだいたいは理解できますが、例えば女性への愛を語る内容であれば、それは身近な恋人ではなく騎士が主の奥様に対して抱く理想の愛である可能性がある、とか、詩に出てくる各単語が宗教的に別の事を意味している、とか、そういった深い読解力も求められます。
正しく詩を理解していないと、これを歌にのせて表現するときに、表現方法を誤る可能性が高いからです。
どういうモチベーションで歌えばいいのか知るには、文化的背景を踏まえて読み込まなければならないわけで、意外と勉強しなければならないことは多いでしょう。


3.記譜

中世時代には現代的な記譜法は存在していませんでしたが、今はあちこちで現代記譜法にトランスクリプトした楽譜が出ています。ネット上で探すとIMSLPなどでトランスクリプションを見ることができるでしょうし、L'Oiseau Lyreなどの出版社からきちんとしたトランスクリプションが出ています。
特にアルファベット文化ではない私たちにとってゴシック体の歌詞を読むのは難しい作業ですし、もともとのマニュスクリプトは不鮮明で音符がはっきりしないこともあるので、これらのトランスクリプトは歌唱の大きな助けになります。
しかし、作曲当時の記譜でなければ読み取れないことも沢山あります。
例えば音部記号の変化する位置(この時代、一般的にハ音記号ですが、何線についているかが曲の途中で変わることがあります)が、ソルミゼーション(ドレミファソラの移動ドですが、シがないので半音はミファに言い換えて歌っていきます)を考えるときのある種の目印になっている可能性もあります。ソルミゼーションはこの時代の作品を特に声のみで演奏する際重要です。平均律ではないので(マショーならピタゴラス音律を使う)、やや複雑な声楽曲に取り組むとき、どこの音をどうとるか考えるにはソルミゼーションでどう歌うか考えるのが手っ取り早いのです。
また、リズムの捉え方は小節線で区切る現代の我々の音楽と異なりますので、オリジナルのマニュスクリプトを確認して、可能であればその譜で歌うことが理想です。今ならシンコペーションで書く部分、小節をまたいだタイにする部分などが、一つの記号で示されていることが多いわけですが、これは歌う側の音の持続に対する感性に大きく作用します。場合によってはマニュスクリプトを使うことで音楽表現が完全に変わってしまう可能性も。
古くはグレゴリア聖歌に使われる五線譜のないネウマから、アルス・ノーヴァ、白色記譜法、黒色記譜法、イタリア・トレチェントなどなど、記譜法は各時代各地方に無数に存在しますが、これに関しては専門書籍も色々存在しますし(日本語であるかどうかは知りませんが、少なくともフランス語では何冊も本が出ています)、基礎知識をどこかで教えてもらうか本で確認すれば、あとは実際のマニュスクリプトとその現代譜にトランスクリプトされたバージョンを見比べていくなどで、ある程度は自習が可能です。
記譜法を学ぶことで、自分の演奏がよりオーセンティックなものだと胸を張れますし、なによりも、他の人が読めない楽譜が読めるという優越感がたまりません。(笑)

私は子どものころ、インディ・ジョーンズにあこがれて、動物が好きだったので古生物学者になろうと本気で考えていたので、そういう性癖の方には、中世音楽、非常におすすめです。
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複数の発声テクニックを習得する必要性について

ヴァカンス大国のフランスで、ここ2週間ほど旅行に出たりしていたので、ブログの更新ができずにおりました。
今日は具体的なテクニックではなく少し抽象的なお話しを書きたいと思います。

声というのは、数ある楽器の中でもある意味で特に自由度が高く、どんなふうにでも使えるものの一つな気がします。
声楽は、まさに人間の身体そのものが楽器ですから、100人いれば100種類の異なる楽器があることになりますし、完全に同じものを2つ3つ用意しようと思っても、クローンでもない限り無理です。録音も、どれほど録音技術が高く、スピーカーが完璧だとしても、生の音と完璧に同じものを作ることはできないでしょう。
このように出発点からして規格化しきれない多彩さを持っている声ですが、さらにその使い方は、オペラのようなリリックな発声から演歌、ロック、デスヴォイス、ヨーデル、ホーミー、とにかく信じられないほど沢山の“演奏方法”があります。

声楽家は常にどんな声が美しいのか、どんな声が理想的なのか、を考えて声を磨き続ける必要があるのですが、これだけ多彩な発声方法があると、時には、何が良い声なのかわからなくなることもあります。

「オペラのようなリリックな発声」ひとつとっても、そこには星の数ほどの発声テクニックがあり、理想の声のイメージがあります。日本の舞台でもてはやされている声とヨーロッパで好まれている声には微妙な違いがありますし、地域だけでなく先生やレパートリーによっても、理想の声のイメージは異なるため、それぞれに異なる発声テクニックがあります(もちろん共通点もあります)。どれを選べばいいのか、何が良い発声なのか、恐らく誰にも絶対的な答えは出せないでしょう。

たった一つの理想の声を作るのでさえ、これほどに悩ましく難しいのに、ただ一つのスタイルで道を極めるだけでは仕事ができないジャンル、それが古楽です。

古楽と一言で言っても、そこには数百年にわたる様々なレパートリーがあります。そして古楽を専門とする人たちは、常に「当時はどんな音楽表現、どんな声が良いとされていたのか?」を考えながら、曲ごとに適切な発声方法を見つけねばならないので、ただでさえ難しい「自分の声」を探す旅が、より複雑で多層的になっていくのです。

ちなみに私自身は、いまのところ中世から現代曲まで一通りのレパートリーを常に同時並行で歌っており、それぞれのレパートリーに合わせて5人以上の声楽教師、ヴォイストレーナーと継続的に仕事をしています。中世声楽、ルネサンス即興、ルネサンスおよび初期バロック世俗曲、バロック・オペラ、通常の古典~ロマン派作品そして現代曲と、それぞれ専門の先生が別々なので、常に複数の発声のテクニックを同時並行で様々な先生にアドバイスをもらいながら勉強しているわけです。

よく、こうした勉強スタイルで混乱しないかと聞かれますが、私の場合は不思議と混乱はせず、それぞれのスタイルを自分の中である程度分類して整理しています。

どの先生も、それぞれに個性があって、教え方もバラバラなのですが、自分が本来もっている声の可能性を壊さない中で、各時代のスタイルやテクニックを一通り見て回っては、どの教師にも共通するものをキープし、共通しないものについては自分の身体や美意識との相性である程度取捨選択や修正をして吸収、実際に歌う際はそれぞれのレパートリーに合わせて使うテクニックを改めて選ぶのが、私の主な勉強方法、そして演奏アプローチ方法です。

古楽を歌う歌手は、どの人もこんな風に複数のスタイルを常に同時並行で勉強していると思います。
例えばコンセルヴァトワールの古楽科を歌で受けるには、バッハのカンタータとマショーのモノディーが課題曲だったりしますから、受験する時点で軽く数百年のスタイルの差を数分で歌いわけできることが求められていますし、古い演奏様式については日々研究がなされ、新しい発見で歌唱方法が大きく修正されることもありますから、柔軟に新しい演奏に適応できるように、発声方法の引き出しも沢山あるにこしたことはありません。
さらにフランスでは、古楽を学ぶ人はだいたい民俗音楽にも造詣が深かったりして、場合によってはインドの伝統歌唱を専門とする歌手たちと即興演奏をしたり、中近東の歌手とコンサートで腕比べをするなんてこともあります。

色々なテクニックの引き出しがなければ、仕事ができないわけです。

さらにこれはコンテンポラリー畑の人たちから聞いたことですが、現代曲を歌うリリックの歌手が少ないため、現代作品のコンサートで歌手が急に足りなくなったりすると、だいたいは、コンセルヴァトワールの古楽科に、歌える人を探しに行くのだそう。

そう、古楽声楽は、常にみんなの何でも屋。そうでもなければ、生き残れない世界なのです。。。

頭の切り替えの早さと、高いソルフェージュ能力、そして身体を操る動物的勘の鋭さがモノをいう業界です(もちろんほかにもたくさん必要な要素はあります)。
苦労は多いけれど、常に学ぶことがあって退屈はしません。

どうでしょうか、こんな古楽声楽、あなたも勉強してみたくなりましたか?(笑)

Profil

辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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