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ルネサンス声楽作品の準備

みなさんは音楽でルネサンスというと、どのような時代の作品をイメージされるでしょうか?
日本だとダウランドのリュート伴奏の歌曲作品など人気がありますね。
フランスでもダウランドは歌われますが、こちらでルネサンスの作品を勉強している、というとむしろダウランドの時代より少し前のポリフォニー作品や、即興歌唱を学んでいるイメージのほうが強い気がします。
音楽の時代区分は美術や文学のそれとはまた別だったりしますが、「ルネサンス音楽」は15世紀から17世紀以前までの作品を指すことが多いでしょう。デュファイなどが活躍した15世紀を中世ととらえることもありますし、17世紀以降も微妙にルネサンス音楽の特徴が濃い作品などバロックと呼ばない人もいるでしょうが、フランスでルネサンスと大雑把に言われた場合だいたいこのあたりの作品をさしていると思っておくと会話がスムーズに進みます。
ウィラールトやジャヌカンのポリフォニックな作品、ラッススやル・ロワ、そしてダウランドやレイヴンズクロフトの作品など、アンサンブルで演奏して面白いレパートリーがたくさんあります。

こうしたルネサンス時代の作品の面白さは繊細で手の込んだポリフォニーにあると私は思っています。
たとえ単旋律の歌曲を歌う際でも、この時代の作品では例えば2節目3節目は装飾をつけて歌いますが、即興的な装飾法では、バスや伴奏に対する対旋律を紡ぎだしていったり、基本の旋律に対するフォーブルドンから音を見つけたり、とポリフォニックな耳を持っていることがとても重要です。
さらに、レッスンなどでよく言われることですが、この時代の作品は、美しい線描画のように、優雅なリボンのように、横に流れる旋律線の描写を忘れてはいけません。どれほど技巧的な装飾が加えられようとも、流れるような美しい音楽の線を乱す演奏、つまりエレガントさに欠ける演奏は好まれないのです。
ポリフォニックな耳と流れる線のような音楽、一見、縦と横で矛盾する要素のように感じるかもしれませんが、ポリフォニーを追うことは、積み木を下から上に積むような作業ではなく、むしろ一列に並ぶ織り糸を美しく絡めて織って行くような作業ですから、矛盾はしていないものです。

こうしたルネサンスの作品を歌う作業は、たとえばロマン派のオペラを歌うのと比べると、作品との距離感、あるいは歌う身体との距離感に、微妙な違いがあるように思います。
ルネサンス作品は、オペラのアリアに比べれば劇的な効果を伴う激しい旋律はありません。歌詞のある多声作品では言葉の出入りのタイミングもバラバラだったり、それぞれが横の線を紡いで、その間の絡み合いを楽しむ作品が多いはず。
ルネサンスの曲を歌うには、歌うことに一生懸命になっていては、作品の魅力を生かした歌唱ができないことが多いのです。

たとえば私自身がルネサンスの作品を歌うときに気を付ける点をいくつか挙げてみましょう。

①ポリフォニーを理解し、ほかの声部がどんな線を紡いでいるか考えながら歌えるようにする
②旋律に対する装飾がある、あるいは加える際、元の線がどのようなものであったか常に頭の中で同時に鳴らしながら歌えるようにする
③自分が歌うパートに出てくる音については、どの音も苦労なく歌えるように十分な発声練習と準備をする
④美しい線を声で描けるように長く安定した呼気を準備する

もちろん、数世紀にわたる巨大なレパートリーですから、地域や時代ごとにスタイルは微妙に異なりますし、すべての作品が上記4点を含むわけでもありません。さらに、この4つのほかに、歌詞表現のことなど、もっともっと考えて準備しなければならないことはたくさんあります。それでも、この4つがうまくいっていないときは、ルネサンスのものを歌っているのにそんな感じのしない演奏になってしまったり、何かしら問題のある歌になってしまうことが多い気がします。

では、どうすれば、こうしたルネサンス作品のための準備が上手にできるでしょうか?

③の音域の問題については、発声訓練の進歩具合によるものですし、その人自身が持ってる音域に合わないものを無理して訓練することはよくない結果につながることのほうが多いですから、まずは無理のないレパートリーを選ぶことをお勧めします。私はまず自分の声域に無理のない作品を選び、必要ならば移調して歌うようにしますので、ここではこの③のためのエクササイズについて説明を省きます。レパートリーによって音域を下げること等は、歌手としての妥協などではなく、美学上の大事な決断の一つにすぎませんから、みなさんも絶対に無理をせず、自分の声にとってベストな声域とレパートリーの組み合わせを選んでください。
私は普段、ドニゼッティのルチアのようなコロラトゥーラのレパートリーを歌いますが、去年からルネサンスないしは中世の作品を歌う際は、はっきりとソプラノではなくメゾないしはアルト音域のものを歌うように変えました。というのも私自身の声質はリリコ・スピントで、音域は3オクターヴ半あるので低い音がよく鳴りますし、一番楽に声が出る声域だけを使ってポリフォニーや線描写に集中してうたったほうが、高音を支える発声上の配慮に気を散らされるよりよほど良い演奏ができると気が付いたからです。
もちろん声楽家として、自分の声の可能範囲をより広く安定したものにするエクササイズは星の数ほどあって、毎日取り組むべきことですし、ヴィルトゥオーゾのように自分の限界まで声を活用して歌うべきレパートリーも存在しますから、すべての時代で同じ声域を選ぶ必要もありませんが、とにかく、ルネサンス作品は声よりも頭を使う方が良い演奏に繋がりやすいと感じるので、発声技術上の挑戦はここでは私は求めません。

というわけで、③以外の準備についてです。

①と②についてですが、これはどちらも対旋律を聞くという、ソルフェジックな耳の問題です。
ただ、自分が歌う音ではない音を聞くというのは案外難しいもので、特に自分自身がバリバリと共鳴している状態の歌手にとっては、非常に困難な作業になりえます。歌手自身というのは、実は自分に聞こえている音と、実際にほかの人が聞いている自分の声との間に大きな差があり、ピッチなども、自分が感じているものと実際になっているものの間に微妙な誤差があるケースも多かったりします。そのうえで、自分の音をキープしながら別の旋律を聞くには、自分の声のコントロールと音を聞く自分自身との間に、少しへだたりを作る必要があるはず。
よく、歌のレッスンでは「耳は自分にくっつけないで、壁の向こうにおいておきなさい!」なんてことが言われたりしますが、体のコントロールと自分の耳を切り離す必要があるのです。
そして④は、より安定した息のコントロールができているかどうか、という点が重要。
長い線を描くには声をフレーズの最後まで支える十分なブレスのコントロールが必須ですし、細かな装飾を入れても基本の線が乱れないようにするには、歌いだしから歌い終わりまで、安定して息を吐き続けられるかどうかがカギとなります。

で、この①②④を一気に鍛えるエクササイズの一つが、ストローを使った準備運動です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まず、ジュースなどを飲む普通のストローを用意。
このストローを口にくわえて、スーーーーーっと息を吹きます。
歌うときと同じようによく脱力して口をぱかっと開けて息を体に導き(よく頬を脱力して顎が解放された状態でブレスをすることが大事で、呼気の際に息を吸い込む音が聞こえるような不自然なブレスは避けたほうがよいでしょう)、歌う時と同様、お腹の下側の筋肉でしっかりと体を支えながら強すぎず弱すぎず、ストローの先から一定に息が出るようにはきましょう。
ストローの先端、つまり息が出てくるところにあいている方の手をかざし、息が一定にはけていることを確認しながら行うとベストです。弱すぎても駄目ですし、強すぎてもよくないので、しっかり手に息が当たっているな、と風圧が感じられる程度に一定にふき続けましょう。
さて、何度かこれを繰り返したら、次は、息を吹き、そのまま、一切呼気の調子を変えずに途中にハミングを入れ、また一切呼気を変えないままハミングをやめる、ということをしてみます。
ここではとりあえず「ハミング」と言ってしまいますが、正確には鼻ではなく口から声を出しているので、ストローに唇がくっついてる状態で「うーーー」のように発声する作業です。ハミングのように喉を閉じて鼻から声を出すのではなく、あくまで口から出しますので、要注意です。
音の高さは、無理のない自由な音で初めてかまいません。ハミングとして声になる瞬間、そしてハミングから呼気だけに代わる瞬間に、一切の変化がないように、呼吸のコントロールを発声と完全に切り離します。
スーーーーーーーンーーーーーーーーースーーーーーーーーー
となるはず、もしこのスーとンーの間に一瞬でも息が途切れたり、ストローの先から出る息の量に変化ができたら、またスーだけに戻して、再び、その状態をキープするよう気を付けながら練習します。
うまくできるようになったら、このハミングと呼気の展開を短めに何度か行ったり
スーーーンーーースーーーンーーースーーーンーーースーーー
音程をつけてみたり
スーーーーン(ド)ーーーン(ミ)ーーーン(ド)ーーースーーー
バリエーションをつけて練習します。
ポイントは、常にストローの先から出る呼気が一定であることと、ハミング発声になった時にテンションが変わらないこと。
この練習を繰り返すと、息と発声のメカニズムがかなり客観的にとらえられるようになり、発声時の息のコントロールがものすごく安定します。
さらに、この方法では発声することに余計な力が入ることがないので(もし力むと、ハミング時にストローから出る空気の量が変わってしまいます)、必要最小限の力で歌声を作る練習ができます。
最小限の力で適格な音程がキープできれば、その分、耳が自由になってポリフォニーを聞く作業がやりやすくなります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

このストローを使ったエクササイズでは、オペラで使うような大きな響きや劇的な表現の練習はしにくいですが(不可能ではない)、ルネサンス作品に使う安定した声のコントロール、そして必要最小限で声を操るテクニックを学ぶにはぴったりです。ストローなしで歌った時も、ストローを使っているときと同じような呼気のコントロール、体の使い方ができれば、横に長く優雅に伸びる線が簡単に描けます。
ぜひお試しください♪
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Profil

辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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