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パリ中世音楽センター

9月が新学期のフランスでは、ヴァカンス前の6月は期末試験のシーズン。
日本と違い、入学よりも進級と卒業が難しいのがフランス、エスカレーター式に自動で学年が上がることはないので学生は全員厳しい試験をクリアしなければ次に進めず、この時期はクラスの中でも殺伐としたピリピリモード。特にコンセルヴァトワールは学生同士の間で順位が付き、上位に入っていないとディプロムがもらえないので友達同士仲良く協力して頑張る、なんて雰囲気は5月を過ぎると微塵もない状態に。
教育の機会は誰にでも開かれており、年間数万円でしっかりした音楽教育がフルで受けられるフランスですが、この順位制の厳しさを勝ち抜かないとプロの音楽家になれずプレッシャーやストレスが多いのも特徴です。

そんな6月のフランスですが、パリの中世音楽センターは一足先にだいたい5月で今季の授業が終わりになるクラスが殆どです。ちょっと寂しいけれど、また来年まで長い夏休み期間に入ります。

パリ中世音楽センター(通称CmmP)
パリ中世音楽センター公式サイト

今日はこのパリ中世音楽センターについて息抜きがてら書いてみようと思います。

ヨーロッパ内でも15世紀以前の中世音楽を研究できる場所は多くはありません。有名どころではスイス、バーゼルのスコラカントルムがありますが、フランス国内で学びたければ、まず第一におススメされるのが「パリ中世音楽センター」です。
リオンおよびパリの国立高等音楽院(CNSMD)の古楽科にももちろん中世音楽を学ぶ授業はありますが、古楽科という名前でひとくくりにされている大型校だけあって、バロックを学ぶ学生も多く、中世だけを中心に勉強しているわけではありません。さらに中世音楽の演奏には音楽学の知識が必須で、より詳しい知識を求めるとソルボンヌにある中世音楽の研究科へ行った方が良いかも、とか、グレゴリオ聖歌を学ぶならノートルダムのメトリスに入る方が良いとか、とにかく一か所にまとまっていてコレ!という場所がなかなかないのがフランスの現状だったりします。

そんな中、手っ取り早く中世に特化して勉強できる場所が「パリ中世音楽センター」なわけです。

私も組織概要まで詳しくは知りませんが、クリュニーの中世博物館と共同事業があったりする半官半民的な施設ですが、設立されてからの歴史は意外と長いそう。30年前のフランスではまだソルボンヌ内の中世音楽科もなければリオンの古楽科もなかったので、フランス国内ではこの中世音楽センターが唯一の勉強の場だったらしいです。
現在この分野で活躍してるたくさんの音楽家がこの中世音楽センターの出身なのもそのため。
中世音楽の世界では有名なDiscantusやAlla Francescaといったアンサンブルを率いるブリジット・レヌ、リオンに古楽科を創設した中世ソルミゼーションの専門家ジェラール・ジェイ、パリとリオン両方のCNSMDで中世対位法と即興演奏を教えるラファエル・ピカゾスといった大御所が教授陣に名を連ねており、これから専門的にこの時代の作品を学びたい人には素晴らしい出会いの場。

授業があるとはいえ、学校という形に組織しているわけではないので、試験はなく、各講座は市民に開かれています。受講したい講座ごとに料金を支払う形態ですが、学期はじめの登録に間に合わなくても、途中からの参加も受け入れてもらえたり、もし問題があって講座を続けて受講できなくなった場合は返金してもらえたりと、超良心的な事務をしてくれます。

私も全講座を見たことがあるわけではないのですが、だいたいはプロの音楽家向けの専門クラスと、この分野に関心のある一般の人向けのアマチュアコースの2つに分けられています。その年によって集まる学生が違うのでクラスのレベルもそれに応じて変化するのですが、だいたい1クラス20人以下、先生方はどの講座もその分野の超一流の教授陣なので、さらに進んだ研究がしたい生徒には絶好の出会いのチャンスです。

今年は例えば写本を扱うジェラール・ジェイのクラスなどはソルボンヌの学生や既にコンセルヴァトワールの教授として働いている人が生徒として集まり、内容もかなり専門的でした。ジョリヴェ先生のグレゴリオ聖歌のクラスとピカゾス先生の即興クラスは人数の関係で専門コースとアマチュアコースを合同で授業する形になったため、先生も生徒もややストレスフルだったのですが、もちろん専門的にやってる生徒には高いレベルの課題が出るので面白い授業でした。

中世音楽センターは、声楽を中心とした授業が多く、写本読解系の理論メインのクラスと、実際の歌唱を中心にしたクラス、さらには声楽技術のブラッシュアップのためのクラス(私の恩師のジャスマン先生が担当していて、めちゃくちゃハイレベルです)と、バランスよく用意されているので、古楽声楽をやる人にはとても良い場所でしょう。
もちろん楽器のクラスもあり、ゴシックハープやハーディガーディのクラスなどでは、当時の様式による即興演奏や伴奏づけのテクニックを実践的に教えてもらえるそうです。

中世の作品はポリフォニーが多いので、多声で実際に歌いながら様式を学ぶことがとても大事です。一人ではできないことなので、同じようにこの時代の作品を学びたい人が集まっている場所で一緒に勉強するのは手っ取り早いですよね。
気に入った先生をみつけたら、今度は中世センターを飛び出して、その先生が教えている別の学校に入学すればよいので、今後の研究の方向を定める前にざっとフランスにおける中世音楽の研究者を見渡す場所としても使えます。

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日本から留学したい場合は、このセンターではビザに使える書類は用意できないので、どこか別の語学学校や音楽学校と掛け持ちましょう。

短期留学やヴァカンス中に試しに講座を受けてみたい、という人は、年に何度かある1日あるいは2日ぐらいの単発の講習会を利用するのが良いでしょう。時期と内容はその年ごとで違いますが、それにあわせて旅行すれば単発で中世センターの授業の一部を体験してみることができます。

単発の講習会以外の通常の授業は隔週や月1などのペースで開催されることが多く、学期はじめに登録すれば、最初の授業の日にその後の授業の日時を他の生徒とも合わせながら交渉が可能です。途中参加でも、事務の人がとても優しいので相談してみると良いかもしれません。

授業は全てフランス語です。全教員、英語はできるはずですし、少人数のクラスだとかなり融通は利くかと思いますが、フランス語でコミュニケーションするのが基本です。
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私は声楽コーチのジャスマン先生の授業が、このセンターで受けると安いので毎年まずはそのために登録をしています。(笑)
彼は数多くのプロ歌手を育てた名講師で、世界各国飛び回って仕事をしているので個人的にレッスンをしてもらうのが至難の業なのですが、中世音楽センターでは30年以上前からずーーーっと継続して授業をやっているので(1か月に1回とか2か月に~とかのペースです)、彼に教えてもらいたければここが一番安定して安く授業を受けられる場所です。

ジェラール・ジェイもジャスマン同様物凄く各地に飛び回って仕事をしている人物なので、センターで彼の講座がある時は優先で受講。

私がいつも個人的にレッスンをお願いしているリオンCNSMのアンヌ先生(Anne Delafosse)もこのセンターでも教えているので15世紀の作品が歌いたい人には良いかもです(私はセンターでの先生の授業は受けたことがない)。

ラファエル・ピカゾス先生の講座は歌の実践が中心なので楽しいですし、何より先生のオルガヌム実践例が素晴らしいのでとても贅沢な講座です。先生はCNSMとノワジエルでも教えているので留学先がCNSMならそちらで無料で授業が受けれるでしょうし、ノワジエルならCNSMより簡単に入れるはずなので、直接そちらに行ける人はその方が安上がり。

サン・ガルのネウマで歌うグレゴリオ聖歌のジョリヴェ先生の授業は2週間に1回ペースの割と頻度の高い講習、楽譜からではなく耳とネウマから曲を学ぶのでとても有意義な講座です。

実はスケジュールが合わなくて一度も受講できていないブリジット・レヌの授業もとても人気があります。
カトリーヌ・シュローダーの授業も私はまだ受けていないけれど来年受講できたらぜひ、と思っているところ。
早く来年度の講座案内が出ないかなーとワクワクしています。
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アルス・シュブティリオル読解

untitled.png

私は昔からなぜか複雑な楽譜が大好きです。コンテンポラリーでも中世でも、それは変わらないのですが、今回、たまたまアルス・シュブティリオルの作品を歌うことになったので、トランスクリプションを作りました。

アルス・シュブティリオルといえば、ハート形の楽譜に書かれたコルディエのロンドなどが有名ですが、今回はトリノ写本の中から特にポリリズムの特殊記号が多い一曲を選んでいます。
上に乗せた写真の通り、とても美しい写本ですが、譜読みも演奏も入り組んだリズムと特殊記号でかなり難しいものになっています。
アルス・シュブティリオルの作品は演奏の難しさ、譜読みの困難さから録音も少なく、演奏会でもめったに演奏されません。私は積極的にこういった複雑なレパートリーを演奏していきたいと思っており、今回はリコーダーとのアンサンブルで演奏録音をする予定です。

こちらが私が書いたアカデミック・トランスクリプションとモダン楽譜のPDFなので、ご興味がある方はどうぞ。
もし演奏会や授業等でこのトランスクリプションを使われる方がいらっしゃいましたら「辻絢子」のクレジットを必ず入れてください。

トランスクリプションPDF

楽譜づくりを終えてやっと演奏の方に着手できるようになったばかりなので、まだきちんとした歌い方になっていないのと、発音で何か所か考察中の部分があるので参考にはならないかもですが、一応ポリフォニーがどうなってるのか確認するために録音をしたものがあるので、のせておきます。ちなみに冒頭のAmeは本当は動詞Aimerの古語なので、カタカナで言うと「アメ」のように、狭いEで発音すべき。

Puisque ame sui doulcement - Codex de Turin from Ayako TSujI on Myspace.



クラヴィシテリウムで2声を弾いているのですが同じ音域同じ楽器なので音が混ざって各声部を聞き分けるのがちょっと難しいですね。一人多重録音の関係でメトロノームに合わせてテンポを取ってるので演奏の質もあまり良くはないですが、一応リズムはそれほど間違えなくやれているはず。

ちなみにこの作品は先日CNSMの手稿譜読解のクラスにちょっとお邪魔した時にやっていた作品。トランスクリプションは私自身で作りましたが、CNSMの教授であるラファエル・ピカゾス先生が作成したトランスクリプションももらって手元にあったので、確認に使用しています。
3声の曲ですが、予定ではフルート3本と私のソロというカルテットで演奏します。
フルートとの方が流れのある良い演奏ができるかなぁと思っていますが、入り組んだポリリズムを聴きあいながら、なおかつ美しいピタゴラス音律で解決を作っていかなければならないので音楽的に結構なハードワークです。

Profil

辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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