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『アルス・ノヴァ 記譜法の基礎』と『アルス・ノヴァ 写本譜例集』を出版いたしました。

かねてより、日本語で古い記譜法を解説するガイドブックがないことを残念に思っておりました。
古い記譜法と一言に行っても、ネウマから白色記譜までありとあらゆるタイプの記譜法があります。
今回は、感覚的にもっと古い他のレパートリーと比べればまだ現代の音楽に近いけれど、コンテクストによって音価が変動する点で十分に中世の香りを放っている、アルス・ノヴァ中期後期の記譜法を選びました。
はじめて中世の記譜法に触れる人にとっては十分に刺激的な内容かと思います。

21ページの小さなガイドですが、この記譜法で書かれた作品(デュファイ、バンショ―あたりのポリフォニー作品)を読譜しようと思ったら、必要な基礎知識は出ています。

『アルス・ノヴァ 記譜法の基礎』
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さらに、このガイドでまとめられた記譜の規則が実際にどのように使われるのか、実際の写本を使って勉強できる
『アルス・ノヴァ 写本譜例集』
も同時に出版しています。
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この譜例集では、3写本4曲についてそれぞれ、実際の写本、当時の記譜法をゆがめずに各声部を縦にそろえたトランスクリプション・ディプロマティック、そして写本読譜初心者のためのモダン楽譜の3つが収められています。
トランスクリプションにはアルテラシオンなどわかりにくい箇所すべてにわかりやすい注意書きが付いており、実際の写本を見ながら譜読みすることができます。

【収録作品】
1. Guillaume de Machaut « Amour qui a le pouvoir / Faus samblant / Vidi Dominum »
2. Guillaume Dufay « Je prends congie de vous amours »
3. Guillaume Dufay « Bonjour bon mois bon an et bone estraire »
4. Gilles Binchois « Triste plaisir »


今後余裕があれば、他のスタイル(ネウマ、モードリトミック、ダジアン、トレチェントなど中世といっても多様な記譜法が存在します)もガイドにしたいと思いますが、シュブティリオルと初期アルス・ノヴァは例外事項などが多すぎて、ガイドにまとまらないかなーと思っているところ。

古い記譜法を勉強したいけど、日本語以外はちょっと苦しい、という方には便利かと思いますので、興味があればどうぞ。
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中世の写本を購入しました。

Manuscrit-Brrbiaire

中世の作品を研究する人にとって、写本を読むことは日常的な作業です。
しかしながら、写本を実際に手に取るチャンスはそうそうございません。
大抵は図書館などに、その写本を実際に見る必要があることを説明するレターや研究内容を説明するレジュメを用意し、お願いして、ようやく写本に近づくことができます。

写本が大好きな私。
いつか、どんなものでも構わないから音楽が記譜されてる写本を所有したい、と非常に強く願っておりました。
おりしも12月、クリスマスももうじきです。
パートナーの彼(←世界有数の80年代ゲームとPCのコレクターで意外と有名人)に「絢子、写本が欲しいな~」なんて言っていたわけです。

そしたら、本当に買ってくれちゃいました★

本日のブログのテンションがちょっと高くても、お許しくださいませ。

ひとまず、こちらが購入した写本の全貌です。
購入した写本のPDF

どうやって写本を買ったかと言えば、非常に簡単で、ネットオークションのeBay(日本だとヤフオクみたいなもの)フランスのサイトでManuscritを検索して、これは!と思ったものに入札。
ネットオークションに詳しい方はわかると思いますが、eBayはヤフオクよりも購入者側のセキュリティが守られており、落札後に商品が届かない、だとか、詐欺だったーなんてことがあればしっかりとeBay側が対応してくれるらしく、出品者へのチェックも厳しいらしいです。
私の写本も、落札後すぐに発送され、手元に届きました。

さすがにフランスのeBayでは、ManuscritやCodexで検索をかけると、多種多様な美しい写本が出てきます。お値段はピンキリ。音楽の記された写本もぽつぽつとあります。私が選んだ写本は、その中でも写真で見た感じ非常に古そうに見えた一品です。

実はこの写本を見つける少し前、学校の授業でこれに良く似た写本を扱っており、もしや同時代のもの?ならすごい!と思ったのです。
BnF所蔵の似たようなタイプの写本
文字飾りが似ているBnF所蔵の別の写本
私の写本がもしこれらと同時代のものなら、確実に14世紀より前のものです。

購入した写本はページで数えて4ページ、フォリオで数えると2枚、所謂ビフォリオと呼ばれる二つ折りの羊皮紙に書かれたもの。
あちこちに痛みがあり、状態は完璧ではないものの、記述されている部分は欠損もほぼない、非常にきれいな状態です。
インクは赤、黒、青、そして紫の4色が使われており、青には鉱石を削ったインクが使われています(写真だとなかなかそこまで映らないけれど実物をみるとはっきりわかる)。

書かれているのは、Quinquagesimeの日曜日のLecon des ténèbresと、Sexagesimaの日曜日の同じくLecon des ténèbres。
実はページで数えて2ページ目と3ページ目の間は、内容がつながっていません。
この二つの祝日の間には間違いなく他の曜日があるでしょうし、2ページ目が半端な部分で終わり、3ページ目は途中から始まっていることから、このビフォリオの間には他のビフォリオが挟まって、カイエになっていたことがわかります。

写本には、聖歌の楽譜だけでなく、間に読まれるレクチオ、さらに創世記の一節が記載されています。
ミサではなく聖務日課で歌われる曲が順番に記されていること、またレクチオや創世記の一節まで記載されていることから、このビフォリオが含まれていた元のコデックスの種類はグラデュエルや通常のアンチフォネではなく、bréviaireブレヴィエールとよばれる本であろうと推測されます。

ブレヴィエールは、もともと11世紀ごろから、修道僧らが旅に出る際、旅先でも修道院と同じく聖務日課の祈祷をこなせるように、祈りに必要な文章と聖歌などを日にちごとにまとめて記載した小型のシンプルな本でしたが、旅先に限らずプライベートな祈りを捧げるための本として使われるようになり、最終的には聖歌や祈祷など種類の異なる内容を日付ごとにまとめた便利な本のことをブレヴィエールと呼ぶようになります。

私の写本の大きさは、25.5センチ×31センチとやや大型です。
旅に携帯するには少々かさばりますので、後世に個人的な祈祷の用途で作られたものでしょう。
一般的に写本は小さいほど歴史が古いことが多いので、書かれた内容と合わせて考えても、私の写本は14世紀ごろのものではないかと思っています。

四線譜の各線はところどころ同じ幅で曲がったりしていますから、間違いなくRastrumラストラムと呼ばれる4線を一回でかける道具(特殊なペン先)を使って引かれています。
文字の装飾は15世紀以前のややプリミティヴな雰囲気がありますが、聖歌の文字体などはまま古い時代のものを使うこともあるので、なんとも言えません。四角記譜は非常に整っていますし、書かれたラテン語の内容も、多少単語の前後が変わっているものもありますが正確です。間違いなく当時のプロが丁寧に作ったコデックスでしょう。

余白に上下さかさまに書かれた文字は日付ですが(フランス語)、これは黒インクの質も全く違うことから、明らかに後世の人がこの写本を取得した日付を書いたメモです。

今のところ、どこのどんな写本の一部なのか、これ以上の事はわかりませんが、貴重な中世の遺産、大切に保管し、他の音楽学者らと共有していきたいと思います。

Profil

辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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