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トレーニングという意識

フランス人はヨーロッパ内でもドイツなどと違って小柄な人が多い国。私自身は身長156センチ体重48キロ、フランスではこの体格は小柄な方ですが特にすごく小さいと言われるほど小さいわけでもなく、街をあるいていても私より背が低い人は結構いらっしゃいます。
フランス人は一般に食生活のクオリティにうるさくて、肥満に対する嫌悪感が強いことから痩せている人が多いですが、歌の世界でも、例えば私がお世話になっている先生方のうち半分ぐらいは私より背が低く小柄です。

でもこの小柄な先生方、一度歌い出すとびっくりするぐらい豊かなブレスで長大なメリスマを見事に歌いきるし、包み込まれるような豊かなクレッシェンドで高音を華やかに盛り上げたり、とにかく見かけからは想像がつかないほどの身体能力を見せつけてきます。もちろんブレスや音量は身体の大きさに比例するわけではないとはいえ、渡仏してすぐの頃は身体能力の圧倒的な差を感じることがよくありました。

一般的に西欧の歌手と比べれば小柄で華奢なことの多いアジアの歌手にとって、こうした小柄な西欧人歌手から学べるテクニックがたくさんあります。
私自身、こうした小柄な先生たちからレッスンを受けて、効果を実感してきました。フランスのボイストレーニングには、日本にはない身体に対する考え方があるような気がします。身体との向き合い方にちょっとした違いがあるような気がするのです。

ドイツなんかと比べれば圧倒的に体格が小さい人の数が多いフランス、移民も多く日頃さまざまな「身体」を持つ人たちを見て生活しています。そしてこの多彩な人々と同じ土俵で勝負するというのが当たり前な社会。学校の試験でも、音楽のコンクールでも、身長や髪の色や肌の色とは無関係に審査が行われます。つまり体格が小さい歌手は不利にならないように、なんとかしなければいけない。でも、生まれ持った身体を魔法のように作り変えることはできないので、小さい歌手たちはみんな、その身体をどうやって開拓していくか考えて、鍛えて行きます。
日常的に様々な身体を持つ人々に囲まれながら、自分の身体と向き合う彼らは、自分の持っている身体的特徴を客観的に把握し、最大限鍛えて、誰にも負けない声を作るんだ、というアグレッシブかつストイックな考え方で日々トレーニングしています。

もちろん日本でも歌を支える身体作りの意識はありますし、レッスンでブレスのためのエクササイズを行うことも多いですが、フランスほど強烈かつ執拗ではない気がします。日本にいれば、みんな小さい体で、アジア人の筋力で、ブレスは長いに越したことないけど、フランスにいる時のような圧倒的な体格差の中で戦うシーンがあまりないのではないでしょうか?そもそもレッスンの中で「ブレスを節約して」とか「声をコントロールして」といった方向で、小さいキャパシティでいかに巧みに歌うか、とうう方向でレッスンされることも多々あるような印象。ちなみにこの節約した歌い方はフランスでは全くうけません。

声や息を節約しなければいけないような難しく長いメリスマであっても、フランスでは、キャパシティを増やすためのトレーニング方法と、より豊かなブレスをするための身体の使い方をまず教えられます。これは完全に歌ではなく筋トレに近いエクササイズで、先生によって様々な方法があります。
その後に、今度はその長いメリスマ全体にしっかりと息を通すエクササイズ(shやzといった子音でメリスマを歌い切る練習など)をし、さらに母音発声が全て均一に歌声になるよう練習し、最終的には豊かな息でメリスマを歌い切れる身体可能域が手に入るまでトレーニングが繰り返されるのです。

すでにある身体でいかに良く歌うか、ではなく、表現したい音楽にあう身体になるまで訓練して身体能力を開拓していく、という姿勢。

この姿勢は基本的にフランスではどの先生でも変わらず持っています。
こうした方向性のトレーニングについて行くには、自分に対するストイックさと音楽や歌うことにたいする献身さ、そして何よりも学ぶ側の向上心が求められます。
持ってるキャパシティでいかに器用に歌うかを学ぶ方が、0から身体を鍛え直すよりずっと簡単ですから!
なので全ての人がフランス式のこういったレッスンを受けて同じ結果が得られるわけではないでしょう。でも、真剣に自分の身体と向き合って鍛え続けることができるタイプの人には、フランス式のアグレッシブなトレーニングはかなり効果的で、最終的にたどり着けるレベルもぐんと上がるでしょう。
トレーニングの結果としてバッチリ肋骨は広がり、腰回りはどっしりし、モードの観点から言えばどう見ても不格好になってしまう、という難点はありますが…(笑)

ブレスが足りない、と悩んでいる人がいたら、小手先の技術もいいかもしれないけれど、自分の身体の限界を広げるための努力をしてみることをお勧めします。それを続けられるだけの粘り強さと、目的意識があるなら、きっとうまく行くはず!
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辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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