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中世の記譜法の勉強について

ネットの普及により、現在では日本でも古楽の楽譜を探すのは昔に比べてはるかに簡単になりました。IMSLPなどを使えばクオリティは別としても古い作曲家の作品は現代楽譜にトランスクリプションしたものがダウンロードできたりしますし、Wikipediaなんかも上手に使うと写本の情報やネット上で見れる図書館のサイトのリンクを付けてくれていたりします。また、写本について少し詳しい方ならDIAMMのデータベースから欲しいマニュスクリプトを探すこともでき、場合によってはサイト内からイメージを閲覧することもできます。

ジョスカン・デ・プレなど15世紀後半、そして16世紀以降の作品であれば、記譜法は小節線がないだけで、読解面で今とそれほど差がないので、古い記譜法についての勉強をしていなくても、写本なりファクシミリなりと、トランスクリプトされた現代譜、そしてYoutubeなどを使い演奏音源もあれば、察しの良い人ならある程度読み進めていくことができるかもしれません。

でも、計量記譜法も、やはり何のレクチャーもなくいきなり読むと苦労するでしょうし、15世紀以前の記譜法は、やっぱり誰かに読み方を教えてもらわないと読めません。

日本では現在流通している♪や♩が書かれたモダンの記譜法以外の■や◆で書かれているものは、全てひっくるめて「ネウマ譜」と呼んだりしますが、フランスだとネウマといえばグレゴリオ聖歌に使われるサン・ガルの記号(✓やら~やらの、音高がはっきりとは示されていないミミズのような謎の記号群)のことを言います。
■や◆は、ざっくりという時は「四角記譜」のように言われます。
そしてこの四角い記号は、写本の属する時代様式によって読み方はさまざま。
ノートルダム楽派のものであればモード・リトミックの規則に従って読み下す必要がありますし、アルス・ノヴァのものであれば、シンコペーションを含むより複雑な音楽のために使われていた当時の規則に従って読んでいかなければなりません。あるいはイタリアのトレチェントであれば、記号の読み下し方は他の地域とは全く異なる規則に従って行われねばならないので勉強が必要です。
歴史上、同じような記号を使ってきたのに、その記号を取り巻く理論は時代や地域ごとに変化しているため、それぞれ正しく理解するためには各時代の記譜法の規則をそれぞれ知っている必要があるわけです。

少なくとも15世紀以前の作品を勉強したい人は、現代楽譜へのトランスクリプションで勉強してしまうと記譜法を変える中で失われてしまうエッセンスが大量にありますし、何より当時の音楽の様式をきちんと汲み取るには当時の記譜法の規則を知っていることがとても大事ですから、ぜひ古い記譜法の勉強をしておくべきでしょう。

でもどうやって?

恐らく日本国内でも古い記譜法の研究をしている方はいるでしょうが、たとえば13世紀あたりのアルス・アンティカの読譜に挑戦するには、複数の写本の比較など音楽学者として豊かな経験がないと難しかったりして、なかなかその時代だけを専門に教えてる先生に出会うのが難しいかもしれません。あるいは14世紀15世紀のものでもアルス・シュブティリオルなど特別に複雑な楽譜に手を出すと、ぱっと初見で読めてアドバイスをくれる教師に出会うのはとても大変かもしれません。

そんなときに大変便利なのが、教科書!

そう、古い記譜法についての教科書というのが、存在します。

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あいにく100%フランス語です。
もとは英語で書かれている本なはずですから、著者の名前から検索したら英語版がどこかにあるかと思います。
こちらの本、タイトル通りずばり900年から1600年までの西洋音楽の記譜法を紹介し、読み方の規則を解説している大著。
大型の本で、持ち歩くには適さないボリュームですが、豊富な譜例と細かな説明で、全て読んで理解すればほぼ全記譜法に対応できるようになります。
しいてケチをつけるなら、フランス人がいう所の「ネウマ」、つまり音高がはっきり固定されていない記譜に関する解説がやや薄いこと。

ネウマも読みたい。

そんな方には、もう一冊別の本があります。

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こちらはお出かけにも持ち歩きやすいプチサイズ。記譜法の歴史を概観するのに丁度良いボリュームでネウマについての説明が割と丁寧なので読んでいて面白いかもしれません。ただ、全てフランス語です。それにネウマに関しては実際に歌ってどうなるのかが現代の記譜法で表しがたいこともあって、四角記譜ではなくネウマ主体でグレゴリオ聖歌を歌える教師に教わる以外の解決策はない気がします。

日本にどのくらい中世の音楽についての学びの機会があるのか私は生憎知らないのですが、とりあえず日本にいた頃、記譜法についてこんな風に解説している書物にはであったことがなかったので、日本語だけで情報を探そうとすると、古楽をやりたい人はちょっと難しいのかもしれません。

だけど記譜法を学ぶことは、演奏を学ぶことの基本。

趣味で音楽をはじめるとき、子どもの頃の最初のピアノのレッスンなど、誰でも、まずドレミの読み方を習います。
中世ないしはルネサンスの音楽をやるなら、まずは同じように楽譜の読み方を学ばなければならないはず。
もちろんモダン楽譜へのトランスクリプションでも演奏はできます。
でも、モダン譜しか知らない人の演奏は、聴けばすぐにそれがわかってしまうのも事実。
古楽は、西洋の音楽ではありますが、ジャズとクラシックが違うのと同じぐらい、違う音楽です。
さらには「古楽」の一言のなかに色々な時代の色々なスタイルがいっしょくたにされていますが、同じ中世でも12世紀と14世紀では全然違うスタイルですし、15世紀と16世紀は異なります。バロックまでいけばもっと違う音楽です(逆に今の音楽には近いかもしれないですが)。各時代のスタイルをきちんと学んで、それぞれの経験を糧にしながら新しい音楽表現ができる演奏家になりたいものですね。
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Profil

辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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