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18世紀以前のフランス語の発音①

フランス声楽作品を学ぶ人にとって、発音は時に大きな壁になりますが、さらにこれが古楽となると、フランス語話者でも頭を抱えることがしばしばです。
でももしあなたが中世やルネサンスの声楽作品を勉強したいと思うなら、少なくとも現在フランスの古楽の世界で常識とされている発音の規則を少しだけ知っておくべきでしょう。

こちらはルネサンス声楽作品としてよく歌われる世俗歌曲です。

Une jeune fillette

Jehan Chardavoineが出版した1575年のシャンソン集に入っている一曲。
こういった古い出版物や手稿譜などはフランス国立図書館(BNF)のホームページから誰でも閲覧し印刷することが可能ですから、興味がある人は楽譜を見てみても良いかもしれません。
1575年のシャンソン集

さて、一番最初に乗せたリンクで音源を聞くと、フランス語を知っている人なら「これ本当にフランス語?」と思うところがいくつもあると思います。
たとえばこのシャンソンの最初の節は

Une jeune fillette
de noble coeur,
Plaisante et joliette
de grand' valeur,
Outre son gre on l'a rendu' nonnette
Cela point ne luy haicte
dont vit en grand' douleur.

古語フランスの単語を詳しく知りたい方はAmazon.frなど見るとAncien Francaisの辞書が売っていますから、買ってみてください。ひとまずここでは意味云々は飛ばして、発音のお話し。

正直なところ、タイムマシンが発明されない限りは、誰一人、18世紀以前のフランス語がどういう風に発音されていたか正確に知ることはできません。また、写本や当時の印刷物は綴りがはっきりしないこともままありますから、その辺も考古学的な問題になって、100%この単語はこういう意味でこういう発音!と言い切れないことも多々あります。
たとえばこの録音ではOutreをContreのように発音していますが、私がこの曲をCNSMの教授から教えてもらったとき、彼女はこれをそのままOutreと発音していました。

細かな違いはあるとはいえ、明らかに古楽を歌うフランス人が一致して行うことがいくつかあります。

一般的で有名なものをかなり大ざっぱに4つほど。

① 「,」や「.」の前のrやsなどの子音は、現代フランス語で発音しないものでも発音する。
② 「oi」ないし「oy」は、現代フランス語で〔wa〕と発音されますが、18世紀以前のものは〔we/ue〕と発音する。
③ 現代フランス語でリエゾンしないものも、リエゾンする。
④ 「r」はイタリア語のような巻き舌になる。

これは非常に大ざっぱですが、まずはこの4つを覚えておくと、初見でルネサンス曲を歌うときに恥をかかずにすみます。(笑)

18世紀以前、とざっくり書きましたが、もちろん時代時代によって微妙に違いはありますし、さらにその曲が当時歌われていたのが南フランスだったのか北フランスだったのかでも、かなり変わります。
こういった細かいことは、レパートリーごとに検証していけばよいですが、もらったばかりの楽譜で地域までよくわからないけど歌わなくちゃいけない、ということだってありますし、まずは曲にアプローチするときに、これら4つを意識しておくと便利です。

よく歌に出てくる単語で、たとえばBois(森)ですが、これは現代フランス語では〔bwɑ〕と発音するところ、古語なら〔bue〕になるわけです。
また、通常発音されない子音字(rが多い)が発音されることで、テクスト内の韻が新たに浮かび上がることもあって、音楽的にもこれが重要なことが結構あります。
逆に印刷されているけど発音しない子音もたくさんあるのですが、こちらはだいたい現代フランス語ではすでにつづることがなくなった文字のことが多いので(現代フランス語Douceの古語DoulceのLなど)、基本のフランス語ができればある程度察しがつきます。

古楽は演奏家によって歌唱のスタイルがかなり違うので、色々聴き比べてみると良いですし、現代的な発音で歌っているから必ずしも間違えかというと、それはそれで良い演奏ができているならアリじゃないかと私は思っています。
場合によっては古語フランス語の発音をすることで観客が違和感を感じて本来の音楽を楽しめなくなることもあるので、TPOに合わせて演奏しわけると良いでしょうが、少なくともフランス古楽をレパートリーにしているなら、古語の発音について多少の知識は持っているべきですね。

ちなみに近現代作品で古語をテクストにしている作品を歌う際に、発音を古語の発音にするかどうかは、私は個人的に現代フランス語の発音にした方が良いような気がしています。
ドビュッシーのフランソワ・ヴィヨンを15世紀の発音で歌ってみると、音楽と食い違った強い違和感を感じるはず。
作曲者がはっきり古フランス語の発音で歌われることを意識して書いていないものは、無理して古フランス語で歌う必要はないでしょう。
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Profil

辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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