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複数の発声テクニックを習得する必要性について

ヴァカンス大国のフランスで、ここ2週間ほど旅行に出たりしていたので、ブログの更新ができずにおりました。
今日は具体的なテクニックではなく少し抽象的なお話しを書きたいと思います。

声というのは、数ある楽器の中でもある意味で特に自由度が高く、どんなふうにでも使えるものの一つな気がします。
声楽は、まさに人間の身体そのものが楽器ですから、100人いれば100種類の異なる楽器があることになりますし、完全に同じものを2つ3つ用意しようと思っても、クローンでもない限り無理です。録音も、どれほど録音技術が高く、スピーカーが完璧だとしても、生の音と完璧に同じものを作ることはできないでしょう。
このように出発点からして規格化しきれない多彩さを持っている声ですが、さらにその使い方は、オペラのようなリリックな発声から演歌、ロック、デスヴォイス、ヨーデル、ホーミー、とにかく信じられないほど沢山の“演奏方法”があります。

声楽家は常にどんな声が美しいのか、どんな声が理想的なのか、を考えて声を磨き続ける必要があるのですが、これだけ多彩な発声方法があると、時には、何が良い声なのかわからなくなることもあります。

「オペラのようなリリックな発声」ひとつとっても、そこには星の数ほどの発声テクニックがあり、理想の声のイメージがあります。日本の舞台でもてはやされている声とヨーロッパで好まれている声には微妙な違いがありますし、地域だけでなく先生やレパートリーによっても、理想の声のイメージは異なるため、それぞれに異なる発声テクニックがあります(もちろん共通点もあります)。どれを選べばいいのか、何が良い発声なのか、恐らく誰にも絶対的な答えは出せないでしょう。

たった一つの理想の声を作るのでさえ、これほどに悩ましく難しいのに、ただ一つのスタイルで道を極めるだけでは仕事ができないジャンル、それが古楽です。

古楽と一言で言っても、そこには数百年にわたる様々なレパートリーがあります。そして古楽を専門とする人たちは、常に「当時はどんな音楽表現、どんな声が良いとされていたのか?」を考えながら、曲ごとに適切な発声方法を見つけねばならないので、ただでさえ難しい「自分の声」を探す旅が、より複雑で多層的になっていくのです。

ちなみに私自身は、いまのところ中世から現代曲まで一通りのレパートリーを常に同時並行で歌っており、それぞれのレパートリーに合わせて5人以上の声楽教師、ヴォイストレーナーと継続的に仕事をしています。中世声楽、ルネサンス即興、ルネサンスおよび初期バロック世俗曲、バロック・オペラ、通常の古典~ロマン派作品そして現代曲と、それぞれ専門の先生が別々なので、常に複数の発声のテクニックを同時並行で様々な先生にアドバイスをもらいながら勉強しているわけです。

よく、こうした勉強スタイルで混乱しないかと聞かれますが、私の場合は不思議と混乱はせず、それぞれのスタイルを自分の中である程度分類して整理しています。

どの先生も、それぞれに個性があって、教え方もバラバラなのですが、自分が本来もっている声の可能性を壊さない中で、各時代のスタイルやテクニックを一通り見て回っては、どの教師にも共通するものをキープし、共通しないものについては自分の身体や美意識との相性である程度取捨選択や修正をして吸収、実際に歌う際はそれぞれのレパートリーに合わせて使うテクニックを改めて選ぶのが、私の主な勉強方法、そして演奏アプローチ方法です。

古楽を歌う歌手は、どの人もこんな風に複数のスタイルを常に同時並行で勉強していると思います。
例えばコンセルヴァトワールの古楽科を歌で受けるには、バッハのカンタータとマショーのモノディーが課題曲だったりしますから、受験する時点で軽く数百年のスタイルの差を数分で歌いわけできることが求められていますし、古い演奏様式については日々研究がなされ、新しい発見で歌唱方法が大きく修正されることもありますから、柔軟に新しい演奏に適応できるように、発声方法の引き出しも沢山あるにこしたことはありません。
さらにフランスでは、古楽を学ぶ人はだいたい民俗音楽にも造詣が深かったりして、場合によってはインドの伝統歌唱を専門とする歌手たちと即興演奏をしたり、中近東の歌手とコンサートで腕比べをするなんてこともあります。

色々なテクニックの引き出しがなければ、仕事ができないわけです。

さらにこれはコンテンポラリー畑の人たちから聞いたことですが、現代曲を歌うリリックの歌手が少ないため、現代作品のコンサートで歌手が急に足りなくなったりすると、だいたいは、コンセルヴァトワールの古楽科に、歌える人を探しに行くのだそう。

そう、古楽声楽は、常にみんなの何でも屋。そうでもなければ、生き残れない世界なのです。。。

頭の切り替えの早さと、高いソルフェージュ能力、そして身体を操る動物的勘の鋭さがモノをいう業界です(もちろんほかにもたくさん必要な要素はあります)。
苦労は多いけれど、常に学ぶことがあって退屈はしません。

どうでしょうか、こんな古楽声楽、あなたも勉強してみたくなりましたか?(笑)
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Profil

辻絢子  (Ayako TSUJI)

Author:辻絢子 (Ayako TSUJI)
フランス在住のソプラノ・ピアニスト・クラヴィシテリウム奏者・音楽学者。パリ・ソルボンヌ大学中世音楽演奏マスター在籍。パリEnsemble Arquémie主催。
中世から現代に至る幅広い時代様式の演奏法と音楽理論を操る歌手、講師として国際的に活躍中。
15世紀以前の作品、とくにアルス・シュブティリオル様式の作品演奏と、13世紀ノートルダム楽派様式の即興演奏を得意とする。
古楽だけではなく現代作品にも関心が高く、日本で大学生&院生だったころは美学芸術学を専攻し音楽に限らずアートや映画、文学など幅広い分野を対象に20世紀以降の作品を研究。
パリでの演奏活動の他、2016年より「中世音楽センター」を立ち上げ、ヨーロッパの現役中世音楽専門家、演奏家と日本の生徒をつなぐ講習会やコンサートを企画している。

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